会長挨拶

日本性感染症学会 第34回学術大会 会長 笹川 寿之(金沢医科大学・産科婦人科学・生殖周産期学)

日本性感染症学会 第34回学術大会
会長 笹川 寿之
金沢医科大学・産科婦人科学・生殖周産期学

日本性感染症学会第34回学術大会開催にあたって

日本性感染症学会第34回学術集会を開催するにあたりまして、ご挨拶を申しあげます。この度、2021年27日(土曜日)、28日(日曜日)に金沢歌劇座にて本学会を開催する予定でしたが、新型コロナウイルス(COVID-19)感染の蔓延に伴いまして現地開催は不可能と判断し、WEB開催するという苦渋の決断をいたしました。本学会に参加される皆様方にご不便をおかけしますことを、心よりお詫び申し上げます。

金沢での本学会の開催は2006年、金沢大学産科婦人科学・井上正樹教授主催の本学会以来2度目となります。このような機会を与えてくださいました皆様方に心より御礼申し上げます。2006年当時は、まだHPVワクチンも始まっていませんでした。いくつかの批判も浴びながら、それ以前より井上正樹教授と私は二人三脚でHPV性感染と子宮頸癌発生についての研究と啓発活動に取り組んでいました。その一つとして、金沢市ではHPV-DNA検査をASCUSトリアージとして子宮頸がん検診に取り入れることを全国に先駆けて実施し今も継続しています。その成果が表れており、2019年の全国調査で石川県は子宮頸癌罹患率の低い県のトップ5にはいりました。このように科学的成果を信じて取り組めば、現在の新型コロナウイルスの制圧も可能と思われます。

今回のテーマは「コロナ禍の中で性感染症を考察する」といたしました。しかし、新型コロナウイルスを取り扱うわけではありません。コロナ禍の今、問題となっている梅毒の急増、HIV感染の一般化、クラミジア・淋菌に対する薬剤耐性の問題、女性性器以外のHPV感染、HPVワクチン再開に向けた啓発、腟内細菌叢と不妊・早産、難治性性感染症、これからの性教育などについてじっくり考えてみたいと思っております。感染症対策として、予防、回避、早期発見と治療が重要です。予防とその回避に関しては新型コロナウイルスに対する予防ワクチン接種とマスク使用及びKeep distanceが最善策であることを国民全員が認知しつつあると思います。性感染症もしかり。特にHPV感染予防ワクチンの再開は若い女性にとって最重要課題と考えます。ただコロナウイルスとの違いは、コロナウイルスが急性・劇症型の感染であるのに対し、性感染症の多くは慢性・潜伏型の感染パターンをとることです。ですから、性感染症の場合は無症候性感染に注意する必要があり、早期発見を目的とした感度と精度の高い検査法とそれを用いたスクリーニングが重要になってきます。そして短期治療が原則です。抗生物質の発見は多くの人命を救ってきましたが、その使い過ぎから耐性菌の問題が出てきました。腸内や腟内には常在細菌が存在し、長期の抗菌剤使用は常在菌が維持してきた環境を破壊して疾病の治癒をむしろ妨げます。そこには免疫も関与すると思われます。細菌などの微生物のうち病気の原因となるのはごく一部であり、多くは人類を含む動物の生命維持に重要な役割をしています。腸内細菌はそのいい例で、アミノ酸合成、脂質・エネルギー代謝などに重要な役割を果たしています。おそらく腟内細菌叢も同様と思われます。

土壌に存在する細菌などの微生物も同様のようです。本学会では、これらを保全することがこれからの農業や環境問題を考えるうえで重要であるという事について「奇跡のリンゴ」の木村秋則氏と「ローマ法王にコメを食べさせた男」の高野誠鮮氏に語っていただきます。また、米国アーカンサス大学のMayumi Nakagawa先生には、HPVに対する宿主免疫応答とそれを応用した治療的ワクチンの効果、膣内細菌叢との関係について解説していただきます。性感染症をグローバルな視点で考えていただく機会になればと願っております。